誤嚥防止術の有用性(2013/03)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行期では、嚥下障害の進行による誤嚥対策の為と、呼吸筋麻痺の進行による呼吸管理の為に外科的処置が必要になります。その具体的な方法としては、現在では、気管切開術が一般的です。しかし、適応患者を選べば誤嚥防止術が非常に有用と考えられます。誤嚥防止術とは気道と食道を完全に分離する手術のことで、喉頭気管分離術、気管食道吻合術、喉頭全摘術などがあります(図)。気管切開と比較して、痰の量も少なくなり肺炎の合併率も低くなるのが大きなメリットです。厚生労働省研究班で作成された「神経難病における誤嚥防止術の適応基準」を表に示します。
当院で過去4年半の間に外科的処置をおこなったALS患者35名の追跡結果によりますと、まず目的は、誤嚥対策が4名(11%)、呼吸対策が20名(57%)、両方の目的が11名(31%)でした。その内誤嚥対策目的の4名全員と両方の目的11名中4名の計8名(23%)の方に喉頭全摘術を実施しました。
この8名は術前には誤嚥傾向が強く経口摂取はほぼ不可能の状態でしたが、術後は痰の量が減少し、平均29.4ヶ月(12?58ヶ月)の間、食事の経口摂取が可能で、嚥下機能が廃絶した後にも安全に味わう楽しみを残すことができました。
痰の量が多いことは患者自身のみならず介護者の疲弊に繋がり、肺炎の合併は予後に関わる大きな問題です。また、経口摂取の継続はQOLの維持に有用で、闘病意欲の向上にも繋がります。誤嚥防止術を選択するかどうかは、患者自身であることは言うまでもありませんが、その適応基準に関して、患者・家族に詳細な情報提供をおこなうことは、重要なことと考えます。
国立病院機構 高松医療センター 神経内科
市原典子