日本神経筋疾患摂食・嚥下・栄養研究会

ALSにおける栄養障害―視床下部の役割―(2018/08)

これまでのコラムでもご紹介してきたように,ALSにおける体重減少は独立した生命予後予測因子であり,栄養療法の重要性が指摘されています。最近,体重を増加させるための薬物療法の一つの治験結果が報告されました。ALSでは筋萎縮によりインスリン抵抗性が増大し,糖の筋への取り込み障害が起きると考えられていますが,インスリン抵抗性の改善薬であるpioglitazone(商品名アクトス)の効果が検討されました(Brain 2016;139:1106)。Pioglitazoneはインスリン抵抗性を改善する以外に,視床下部に作用し,食欲を増大させ,体重を増やす作用がありますが,報告では残念ながらpioglitazoneを投与しても体重は増えず,延命効果は得られませんでした。ただ興味深いのは体重が増えなかった原因として,視床下部にある食欲を抑制するproopio-melanocortin neuron(POMC)と食欲を増大するagouty-related peptide neuron(AgRP)に何らかの障害があるかもしれないという考察がなされていることです。
この論文に呼応するように,ALS患者の頭部MRIでの視床下部の容積を測定した論文も発表され,ALSでは視床下部が小さく,それが体格指数(BMI)と相関すること,また家族性ALSでは発症前から視床下部の容積が低下していることなどから,発症早期から視床下部に変性があるのではないかと考察されています(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2017;88:1033)。神経病理学的な検討でも,外側視床下部にTDP-43が蓄積している患者では,そうでない患者に比べ,体重が有意に低いという報告もあります(Acta Neuropathol Comm 2014;2:171)。ALSは多系統変性症であると言われていますが,視床下部病変は生命予後に影響を与える重要な病変である可能性があります。
ALSにおける栄養療法は,リルゾールやエダラボンに劣らない効果があると考えられています。診断前に体重が減っている症例でも,診断後に体重増加に転ずる症例は間違いなく存在しますし,体重増加を呈した症例は生命予後がよいことを確認しております(未発表)。病初期から視床下部病変があることを念頭におき,診断時から体重維持・増加を目的とした栄養療法による介入が必要だと言えます。

東京都立神経病院 脳神経内科 清水俊夫