態癖(たいへき)(2015/01)
「なくて七癖」という言葉がある。知らず知らずに頬杖をついたり、うつ伏せに寝たりする習慣もその一つである。
「先生、頬杖をする習慣はありませんか。片頬杖で右手を顎のところに置いて、『考える人』のポーズは一見格好良くみえますが、歯にはよくないのですよ」と、前にかかっていた歯科の先生に指摘されたことがある。確かに別にポーズを付けるわけではないが、自然に片頬杖をして「考える人」ポーズをとっていることが多い。私の場合は右頬杖が多いが、すると対側の左上歯の大臼歯に障害が来ることが多いというのである。ちなみに私のその部分は義歯(ブリッジ)となっている。
その先生によると、歯科健診のついでに小学校の教室を覗いてみると、約三分の一の子どもたちが、片方か両頬杖をしていたそうで、これは歯の健康という意味では由々しき事態なのだそうだ。よく考えてみると、私も右顎に手をあてたり、寝る時も右手や左手を頭の下に置いて側臥位にすることが多い。でもその位で、歯並びや顔の形、歯の病気に重大な関係があるというのだろうか。
私の心の中を見透かしたのか、「後でDVDを用意しますから、ちょっとみて帰りませんか」ということで、10分ほど診察室の横で見せてもらった。
タイトルは「態癖(たいへき)」という聞き慣れない言葉だったが、「態癖とは歯を移動させたり、歯軸、歯列弓、下顎位を変えたり、顎顔面系、さらには全身において大きな影響をおよぼしている日常の生活習慣の中で無意識に行うさまざまな習癖」のことだそうである。
察するところ、このような考え方は、歯科矯正学の進歩と軌を一にしたできた言葉のような気がする。最近よく見かける光景であるが、歯並びの悪い人が歯列に沿って小さなピアノ線のような鋼線を架けている。いわゆる歯の矯正治療中ということになるが、あのくらいで本当に矯正されるものかと不思議に思っていた。DVDの解説に依ると、歯を動かすためにはたった100~170グラムの力が持続的に働けばいいのだそうで、人間の頭は5キロもあるので、頬杖一つでも矯正する力の30倍の力が加わるというのである。そのため、頬杖や横向き、うつぶせ寝で歯列を押さえた形で寝ると、持続的に強い力が働くため歯が動いて、歯並びが悪くなるのだそうだ。矯正前と一月後の歯列や顎の形の変化をみれば、歴然とした違いがあることがよくわかった。また大人では、歯列の不整は肩凝りや顎の痛みといった体の不調の原因になっている可能性もあり、態癖をなくすだけでもかなりの治療効果があるという。
南風病院 福永秀敏